≪対策編≫ なったらどうする? 起業家のメンタル不調
メンタル不調は、果たして自然治癒できるものなのか、自己判断が難しいことがその背景にあります。とりわけ、起業家は自らを追い込むクセが出来ているため、少々の違和感があっても「自分は大丈夫だ」と無理をしがちです。
何より、うつ病は人間関係や仕事からの強いストレスに起因することが多く、適切なケアをしない限りには、うつ病の因子にさらされ続けて悪化をすることになってしまいます。最悪は、苦痛に耐えられずに自殺を選んでしまうこともあるのです。
このようなケースを防ぐには、次の「回復のアプローチ」を理解しておくことが重要です。今回は前回の続きとして≪対策編≫を議論したいと思います。
◆メンタル不調はどうやって起こる?【筆者のケース】
起業家精神は誰でも身につけられるで紹介したように、私は母親の統合失調症を通じて、メンタル不調についてはよく知っているはずでした。
しかし、いざ自分がその立場になると、当事者には想定を遥かに超えた苦痛があることを理解するようになりました。
ある日、父が突然「事業拡張のため」と言って、私に2000万円の連帯保証人を要求したことがきっかけでした。そして目の前が真っ暗になり、誰に救いを求めようにも相談する相手もなく、絶望の日々を感じるようにもなりました。
しかし、私自身のメンタルケアを行う中で、少しずつ回復につながるようになりました。今では、普通の人と何ら変わりなく毎日を過ごせるようにもなっています。
しかも、メンタル不調と付き合っていく中で、改めて心身の健康の重要性に気づくようになっていきました。
それでは、回復に向き合う上で重要な「5つのR」についてご紹介します。
①Rest【休憩】
メンタル不調になったときは、とても辛い「どん底」を経験します。このようなとき、無理に仕事をしてはいけません。まずは手を止めて休み、仕事から離れることが大切です。
辛い時期は、ひたすら脳を休めることが重要です。実はメンタル不調は「心の病」ではなく、「脳の病」だからです。睡眠を十分にとり、のんびりだらだらと過ごしましょう。
②Recreation【遊び】
仕事の手を止めた後は、日常から離れて自分を解放することが大切です。散歩や旅行など気楽になることを行いましょう。女性はヨガなどがおススメです。ゆるい時間を満喫するよう心がけましょう。
③Relaxation【くつろぎ】
Restと併せてリラックスする習慣を作ります。例えば、瞑想やマインドフルネス、階段をゆっくり歩いたり、雑誌を読むなどがおススメです。静かな場所で気楽にできるものを選びましょう。
④Reflection【内省】
①~③は自分を落ち着ける土台のようなものですが、こちらは専門家を必要とします。
自分のメンタルのケアをするには、無意識にはまっている「ネガティブ思考」から脱却することが重要です。
ネガティブ思考からの脱却には「一体、自分に何が起きたのか?」という視点でカウンセラーや精神科医らと一緒に自分の内面に向き合っていくことが大切です。
⑤Rhythm【生活リズム】
メンタル不調が回復してきても、不調になる前と同じ状態になることはできません。仮に回復し、以前と同じパフォーマンスで仕事をしたとすると再発をしてしまいます。その上、体調には波があり、体調が「良い時」と「悪い時」があるのです。
仕事に復帰していくには、この体調の波を自分で管理し、把握しておくことが不可欠です。
もし、ご自分の体調を管理したいならばこのシートを使用してみてください
http://www.secretariat.ne.jp/jsmd/sokyoku/pdf/suimin_kakusei_rhythm.pdf
◆メンタル不調から回復すると”人生が変わる”
メンタル不調のような「人生の大きなアクシデント」と言えます。
病気がそれまでの世界観、心情、アイデンティティといった価値観を粉々にし、人生に変革を要求するようにもなります。
しかし一方で、大きなアクシデントを乗り越えた人は、それをきっかけに深い癒しが起きたり、新しい世界観に気づいたりして、結果的に劇的な成長することもあります。
ハーバード大学医学部 心理学者マリー・フォーゲアドは「逆境を経験すると信念や人生の優先事項が変わり、創造性が向上するようになる」と述べています。
価値観が破壊されると、信条や思い込みをすてた「ゼロからのスタート」となります。
このため、世界観の再構築をもたらし、「人生への深い感謝」「利他的な行動」「新しい可能性を見出す」といったことへ気づくようになるためです。
実際、メンタル不調から回復し、起業をすることになった人もいます。
キズキグループ代表 安田氏は、働けなくなった人向けの就労支援事業を立ち上げました。彼が起業したのは、「うつ病になってメンタル不調の人の気持ちが分かったから」と述べています。
勿論、メンタル不調にはなるべきではありません。しかし、病気になってしまい「どん底」になっても這い上がっていけば、新しい世界に進むことができるのです。
苦しくてもあきらめてはいけないのは、起業も病気も同じことなのです。